トランプ時代の北大西洋条約機構。

今期、ニコラス・バーンズ教授の授業をとっている。


1週目でいきなり課題が出て、

トランプ大統領宛の政策提言を書かされたり、

いきなり授業で当てまくられたり、

結構緊張感が高く、授業の内容自体も面白いのだが・・・


今日は、授業とは別途、

バーンズ教授が歴代のNATO大使(United States Permanent Representative to NATO)を招いて本日行ったディスカッションが面白かったので備忘まで。


***


北大西洋条約機構、NATOは来年の4月で

1949年4月4日の設立から70周年を迎える。


それに合わせて米国から派遣されていた歴代大使が集まって、

NATOの将来について提言を纏めているとのことで、

バーンズ教授自身もブッシュ政権時代に大使を務めていたことから

集まった機会に学生向けにパネルを開催してくれたものだ。


30人ほどの学生に加えて、一番前の席にやって来たのは

ケネディ・スクール学長も務めたジョセフ・ナイ教授と、

言わずと知れた国際政治のスティーブン・ウォルト教授。


そしてスピーカーは、クリントン政権の大使だったRobert Hunter氏から

オバマ政権の大使だったDouglas Lute氏まで2人を除いたNATO大使5名。


***


まず、トランプ大統領はNATOを「時代遅れ(obsolete)」と批判しており、

ロシアのプーチン大統領を褒めてみたり、

同盟相手である加盟各国を表立って批判(castigate)してみたり、

また、7月のNATO協議でも防衛費の負担増大を要求しており、

同盟国の名誉を傷つけるような批判的なコメントを繰り返して来た。


従って、ディスカッションは


「トランプ大統領がNATOに与えた傷はどれほど深いのか。」


というところから始まった。


    • 今までも国によってNATOのとる政策の違いによる対立はあったが、NATOそのもの、Article 5すなわち集団的自衛権( Attack on one is attack on all)が911で発動されたことの重要性を軽視すること、「同盟」という核心に疑問を呈したのは初めてのこと。
    • 2020年、2024年のトランプ後に信頼が回復されるのか課題。
    • 防衛費の応分負担については、言い方は問題としても、トランプ大統領の指摘は本質的に正しい。加盟国は2024年・GDPの2%を目標に着実に進めているし、防衛費の20%をR&Dに割くという点も恐らくクリアするであろう。


このような意見が出る中で、

一方で、

トランプ大統領が掻き回したことにより


「本当に北太平洋条約機構は必要なのか?」


ということを改めて表立って問うた、という点で

ある種の振り返り地点になっているとの見方も持っているようだ。


ナイ教授は

「ディスカッションのために敢えてフレームしてみるけど、、」と前置きしつつ

こんな議論を展開した。


    • どんなに批判されようとも、欧州は米国から離れることはできないのでは?他に誰が安全保障の面倒を見てお金を出してくれるのか?
    • 同じように、米国の立場から今後対立する中国とのバランスを保つには経済規模・安全保障の両面から見ても、価値観の近い欧州と同盟を維持する以外に選択肢はあり得ないのでは無いか?

すなわち、トランプの影響があろうとも、長期的には相互依存の関係であり

NATO維持以外の選択肢はない、と考えているようだ。


ウォルト教授は、

「あえて厳しい・難しい方向で提起するけど、、」と前置きしつつ、


    •  NATOの存在意義はあるのか?米国の国益に適っているのか?
    • 冷戦後のオペレーションは成功したものが無い。
    • トランプの影響以前の問題として、欧州には自立してもらい、その資源をアジアに振り向けたほうが良いのでは無いか?

とその根本に踏み込んだ。


大使たちの反応は、

大筋として否定しないものの、欧州における問題は、

「欧州が弱く、米国に頼って自立してくれないこと」

だと指摘した。


今日のところのコンセンサスは、

  • 今後、防衛費増大も含めて、欧州が自立的に安全保障体制を確立できるほうが好ましい
  • 一方で、NATOは今までの蓄積・価値観共有含めて「資産」である
  • 今後、注力していくアジア、特に中国とのバランス・オブ・パワーを考えれば、欧州と米国の同盟維持は不可欠である

といったところだった。


また、NATOの現在の懸念点や今後については、以下のような指摘がされた。


    • ハンガリー、ポーランドなど、NATOの加盟国でありながら、右派強硬派が政権を獲得しており、「価値観を共有する国」で無くなっている国も出て来た。NATOの意思決定は28カ国全体のコンセンサスが基本であり、価値観を共有できない国を排除するような仕組みも無い為、今後、トルコ・ハンガリー・ポーランド、そしてポピュリストが躍進するイタリアなど、意見が食い違う可能性があることが課題になり得る。
    • 従来安全保障に入ってこなかった分野(Unconventional part)であるサイバー攻撃、エネルギー攻撃、選挙プロセスへの妨害などにどう対応していくか。また、軍事以外の、移民の保護などに機能を拡大できるかが課題。
    • アメリカが常に注目を怠って来た(が中国は非常に進んでいる)アフリカや中央アジアなどへの影響力拡大をどう考えていくかも課題。


以上のようなことを踏まえつつ、


未来のNATOの姿を検討しているらしい。


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今回の留学では、

2016年のトランプ政権発足、Brexit等に象徴された

ポピュリストの台頭・保守主義の台頭により

民主主義・リベラルな世界秩序への挑戦が突きつけられる中、

アメリカはその危機をどう咀嚼し立ち向かうのか?

ということを観察したいという課題意識があった。


今日のNATOについての議論は、

トランプの突きつけた批判から、

本質的なNATOの役割を議論するという意味で

非常に示唆に富んでいた。



写真はNATOのサイトより。


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