成長の停滞と格差の拡大を考える(2):オバマ政権賃上げの戦い。

「まず、何よりどうやって賃金を上げるか考えてほしい。」


第1期はリーマンショック後の景気後退局面からの回復と

目玉政策だったオバマケアを優先していたようだが、


オバマ政権の第2期の最優先事項は、

鈍化する成長に対して如何に賃金を上げるか、ということだったそうだ。

(ボストンは、花の蕾が出てきたが、まだ肌寒い。)


書くのが遅くなって春休み前の話であるが、

先日、Jason Furman教授の授業でゲスト・スピーカーとして

Sharon Block教授が登壇した。


Sharon Block教授はロー・スクールで教えているのだが、

ハーバード・ロー・スクールのLabor and Worklife Programプログラムの代表でもあり、

オバマ政権では労働大臣のアドバイザーとして、

労働政策に携わってきた人物だ。


***


賃上げには確かに色々な方法がある。


例えば、政策王道でもっとも簡単に思いつくのは、

最低賃金の上昇。


しかし、第二期オバマ政権で課題だったのは、


「いかに立法府を通らずに賃上げを実現できるか」だ。



共和党が過半を握った立法府を通ると、法案が通らない。


それゆえ、行政府でできるExecutive Orderを通じて

政策を実現するものだ。


最近、トランプ大統領もその種のことを行って批判されたりするが、

これはトランプ大統領が始めたことではなく、

オバマ大統領がよく使っていた手だ。


しかし、賃上げとなるとどんな手があり得るのか?


安倍首相が経団連に要請していたように、

ソフトに労働市場に働きかける?


Block教授らが出した答えは、

ホワイトカラー・エグゼンプション規制の基準金額を上げることだった。


日本では1,075万年を基準とすべく議論されていた同規制だが、

アメリカでは長らく過去の賃金水準から全く改定されていなく、

250万円程度が基準となっていたようで、


かなりの低賃金労働者でも残業が支払われない対象になってしまい、

完全に「プロフェッショナル・エグゼクティブ用」と言う建前は形骸化していたそうだ。


そこで、基準をせめて500万円程度に改定しようという試みだった。

基準金額をいじるだけで、法案そのものの審議は必要ない、

行政だけで行える改定、ということだ。


数年かけて、あらゆる手段で金額も調整して、

2016年についに大統領の署名まで持って行き・・・


というところまでいったものの、


残念ながら、本政策は、


最終的には、テキサス州の連邦判事に覆され

実行されなかった。


***


トランプ大統領が就任初期にテロ対策として、

イスラム教の国家からの入国禁止のExecutive Orderを発行し、

世界のリベラルからのブーイングを受けつつ、

司法側がその実行をブロックしたのは記憶に新しいが、


政策実現過程で、

これらの駆け引きを見るのは、

非常に行政・立法・司法の3権分立のダイナミックさを感じる。


一方で、実務の裏側を聞くと、


数年間かけて準備してきた政策が実行に至らず、

たった一箇所テキサス州の、

ある種イデオロギーに近いような判事個人の見解で覆されるというのは、


3権分立の難しさ・厳しさも、

同時に感じさせるものだ。


***


ちなみに、

周りのアメリカ人の政策論議を聞いていると、

今アメリカで課題だと認識されていることがわかって、

非常に面白い。


Jason Furman教授のクラスでは、


成長戦略・格差対策・労働参加に関して

自分が選択した政策について、


クラスの前で「議会への証言」方式で

プレゼンするという課題があるのだが、

(議会への証言方式だからQ&Aで

賢い質問をするのは禁止ね、

というFurman教授の皮肉ジョークが飛んだセッティング。)


アメリカ人の学生の政策課題は


(1) Affordable Housing –

価格高騰してしまっているNYC、シリコンバレー、LA、ボストンなどの

住宅事情について、再開発、土地活用、低所得者向け住宅整備など格差対策。


(2) Affordable Childcare –

馬鹿高い保育園など、働く親が困らないため、

また、女性の社会進出をより助けるための対策。


の二つに相当数が集中していた。


やはり、貧富の差が開いていて、

住宅やチャイルドケアなど、


必要不可欠にも関わらず、

貧困層どころか

中流階級の自分たちでさえ手に入らないものが

増えていることを実感させる。


***


昨日は、同級生たちのグループで、

「刑務所の民営化は正しいか」

について熱い議論が交わされていた。


学部の学生団体が、

「ハーバード大学の基金が民営化刑務所に投資しているのは許せない」

として抗議活動を展開して、

(看板と掛け声で講演を妨害して続行不可能にしたために)

学長が講演を一時取りやめるほどの騒ぎになっていたことを

きっかけにしたものだ。


インフラの民営化に携わっていたビジネスサイドの人間としては、

単純な「民営化=悪」論・「民営化=全て上手くいく」論は賛同しないものの、

運営が効率化されて政府財政にもプラスなのであれば

民営化そのものに問題はないのでは?

と思ったが、


同じことを思ったらしいアメリカ人がその種の発言をしたら、

すごい勢いで炎上していた。


黒人差別や貧富の格差が不当逮捕につながっていて、

民営化した刑務所はそれを助長する機関という

認識(ある種、象徴化?)がされているようだ。


オバマ政権下では、民営化刑務所を削減する方針だったものの、

トランプ政権下で復活していると。


(ちなみに、昨日は議論の収拾がつかず、

別途専門家も含めてもう一度議論の場を作ろうという話になっていた。

個人的には、不当逮捕と民営化刑務所との関係など、

感情的な部分が前に出すぎて議論がすれ違って理解できなかったので、

事実関係の解明含めて、引き続き注目したい。)


***


ここまで「格差」について意識されているのを見ると、


極右・極左候補が台頭するのも頷け、

実は次の選挙でもトランプの現行支持者の基盤は盤石なのでは・・・

と思ってしまう。


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