行動経済学のススメ2。チョコレートはいかが?路上に出ての実践編。
ボストンにもなんだか春が来た!
(ケネディ・スクールの中庭)
少しまだ寒い日も多いが、
道端でも花が咲いていて、
テラスには椅子やテーブルが、
道には自転車が、
今までどこにいたんですか!?というくらい湧いて出てくる。
トロントでも思ったが、
夏が短い分、暖かい日がやってくると
この短い期間を思い切り楽しみたい!!という気持ちが前面に出るようで、
見ているだけで心が踊る。
ボストンは本当に良い季節に入ってきた。
***
先日紹介した
非常に面白いのは理論を学んで
実践の例を学んで、
そのあと、
実際に実践してみる、、、という点である。
ということで、最近二つの実践実験をした。
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1. mTurkでオンラインで寄付を募ってみる。
mTurkというアマゾンのオンライン仕事委託サービスを使って、
1000人単位でアンケートに答えてもらう。
回答者が受け取るアンケートの報酬1ドル50セントのうち、
成功報酬部分の50セントを、
マラリア撲滅のNPOに寄付してもらうには、
アンケートの最終画面に、
どんな依頼文を出すのが有効か?
というのを、実際に考える。
4人のチーム20組で、
それぞれのチームが、
色々行動経済学の理論を駆使した文章を検討。
実際にランダムに回答者に割り当て、
「平坦な文で依頼した場合=34%が寄付した」
という基準から、
どれくらい上回って寄付を獲得できるか試してみる、というもの。
みんな、色々なテクニックを駆使:
Default = 最初から「これがデフォルト」となっているとそれを受け入れがち。
→ e.g. 「寄付しますか?受け取りますか?」とフラットに2択で聞くより、
「寄付されますけど、あえてOpt-outしますか?」と言われると、そのままにしがち。
Majority = 他の人もやっている、と思うとその選択をしがち。
→ e.g. 「このチャリティには半数以上の人が協力しています」
Anchoring = 特定の数字などを出すと、その後それが思考の基準になってしまう。
→ e.g. 「平均1人5ドル寄付されています。」「あなたは懐が深い人です。」
Future Lock-in = 今やることをコミットするより、将来のことをコミットしやすい。
→ e.g. 「今寄付して下さい」というより、「2週間後に寄付されますがどうしますか。」
などなど。
我々のチームは、
見事、63%の人が寄付してくれたという結果に。
20チーム中3位くらいだった。
70%程度が寄付を選択した1位のチームは、
「寄付を選択しないなら理由を書いて下さい」
という理由欄をつける、というもので、
おそらく
「書くの面倒くさいから、もう50セントくらいならいいや」
という層を獲得したのではないだろうか。
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結果発表後のディスカッションでは、
「どちらかを選択して下さい:
1. はい、寄付します。(子供の命をマラリアから救いたいです)
2. いいえ、私は自分勝手です。」
みたいな依頼文や
「取扱説明書みたいなめちゃめちゃ長い文にした」
「Opt outする選択肢を凄く小さく出した」
みたいな案について、
それをすることの倫理面とか、
逆に心理的な反発があるか?
などを議論した。
結果、全チーム基準の34%を大幅に超えていたので、
心理を踏まえた依頼をすることには成功しており、
こんな少しの文章の違いで、
人は影響されるのだな、と
改めて行動経済学や心理学の面白さを感じた。
更に、理論を知っていても、
実際その理論を使って書いてみた文章は
チームによって千差万別で、
心理に訴えかける、ということが
ある種のアートの部分がある、と実感した実践だった。
***
2. 道端で寄付を募ってみる。
InfluenceというRobert Caildiniの本を読んで、
そこに書かれている行動心理を使って、
チームごとに実際に道端で寄付を集めてみる、というもの。
決まっているのは、
「ボストンのフードバンクに対する寄付を40分以内で募る」
ということだけで、
どこで、何時に、どんなツールで(ただし、対面のみ)
募るかは任される。
チーム毎に、
計画、いくら集められたか、使ったテクニックとその有効性等を
事後振り返りのペーパーとして提出。
我々は、
人通りの多いハーバードのキャパス学生センターの前で
観光客を主に狙って、
「Social Proof」=信用を得るため、
ハーバードの学生と明らかにわかるように
ロゴ入りの上着を着て、
道ゆく人々に声をかけた。
しかし、
これがなかなか難しい。
自分だって、道端で声をかけてくる人がいると、
それが善意の寄付依頼だろうがアンケートだろうが、
それを峻別する間も無く、
目を会え和せずに足早に通り過ぎがちだ。。。
そこで、Influenceで紹介されている
「何かあげると、それ以上のことを返しがち」
というテクニックを駆使すべく、
チョコレートを差し出してみたりしたが、
これは意外と逆効果だった。
どうやって会話を始めるが一番止まってくれるか?
「ハーバードの大学院生なんですが・・・(変な人じゃないよアピール)」
「チョコレートいかがですか・・(モノで釣る)」
「ボストンの貧困と戦うために寄付してくれませんか・・・(目的で共感してもらう)」
「ボストン・フードバンクの寄付募集をしています・・・(最初にストレートに言う)」
など色々試してみたが、
結果、一番良かったのは、
「少しお時間ありますか?」
と話しかけることだった。
また、デンマーク人とインド人とチームを組んでいたが、
やはり声をかけるときに似た人種の方が立ち止まる確率が高い。
殆どの人に無視され、泣きそうになりながらも、
規定の40分間で50ドル程度の寄付を
集めることができた。
これも、リスクフリーな環境で
色々と手法を試せるという意味で
非常に面白い実践だ。
***
事後ディスカッションで聞くと、
パーティを開催して募ったり、ボランティア集会に行って募ったり、
ハーバード像の前で写真を撮ってあげて声をかけたり、
色々試していたチームがいたようだ。
ここでも、
「嘘をついたか?」(例えば、いわゆるサクラ的なことをした人がいるか、など)
「先に物をあげることに騙しているような罪悪感はあったか?」
など色々な議論がされた。
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最後に教授から、
「隠されている・嘘をつかれていると思うと反発する」
バックラッシュの心理についての、
小さな子供での実験の論文の話があり、
非常に面白かった。
似たようなおもちゃが、
部屋を仕切る低い壁の両側にあったときに、
子供達がとる行動を観察。
すごく低くて見渡せる壁の場合は、
全員が壁の手前で遊び、
少し高くて何か隠れているような壁の場合は、
全員壁を乗り越えて向こう側で遊ぶ、というもの。
人間、
「なんかあるな?」
「なんか隠してないかこの人?」
と思うと
反発するらしい。
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ちなみに、いずれの実践でも授業を通じて集めたお金は
実際にチャリティに寄付されている。
大学院に来て、
授業で道に立って募金を求めることになるとは
想像していなかったが、
実践、フィールドこそ学びがある、
と実感できる授業だった。
(娘も道端に咲いた花にご満悦。)
〆
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