時代の転換点とリーダー達:バーンズの授業を終えて。


ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領が94歳で亡くなった。


今週は今学期最後の授業であるが、

私の取得している授業のうち

Martin FeldsteinやNick Burns教授は、

明日執り行われる元大統領の葬儀に出席するため、

最後の授業が無くなったり、リスケジュールされたりした。


ケネディ・スクールのElmendorf学長からは追悼メッセージが発せられ、

ブッシュ政権で働いた経験のあるBurns教授は

授業の最初に時間を割いて彼について話をしてくれた。


今週金曜日には、

初代ケネディ・スクール学長のグレアム・アリソンや

ロジャー・ポーターなどの教授陣が

彼のレガシーを話し合うセミナーを設定している。


自分にとって、パパ・ブッシュは

リアルタイムに「アメリカの大統領」として名前を初めて認識した人だと思う。

(小学生の時「ぶしゅっ!ブッシュ大統領〜」という

くだらないギャグが流行っていたな、と、どうでも良いことを思い出す。。。)


ブッシュ元大統領は軍人経験あり、

下院議員、CIA長官、UN大使、中国が国交正常化する前の大使(正確にはまだAmbassadorを置いていないのでminister)を務めており、

特に外交面に関しては、

冷戦時代の終結に当たってゴルバチョフの信頼を勝ち得るなど、

確かに、時代を築いた人であることに間違いない。


しかし、恐らくここまで様々な人が

彼への尊敬や賛辞を示すのは、


彼が政党に関係なく、

人徳の面で「尊敬されたリーダー」だったからのように思う。


クリントンが政権を受け継いだ時の、

彼のホワイトハウスに書き残した手書きの手紙は、

ここ数日SNSで話題になっていたが、

Burnsの授業でも読まれた。

(写真はCNNより。)


ゴルバチョフの個人的な信頼が厚かったのも、

冷戦による米側の「勝利」を

ゴルバチョフの立場を考えて誇示しなかったことから、と言われている。


「悪いことの責任は自分、良いことは皆のお陰」

という、まさに尊敬されるリーダー像だったようだ。


***


この学期、

米国のキャリア外交官トップである元国務次官Nick Burnsの

「Great Power Competition」という授業を取っていたが、


今日ついに最後の授業となった。


今学期、自分としては公共経済や財政フォーカスの中で

国際関係系の授業を取ろうかどうしようか・・・と悩んでいたが、


ショッピング・デーに彼の授業を聞いて、

なんだか心惹かれてしまい、取ることにした。


大国(アメリカ・EU・ロシア・中国)間の国際関係を、

国力・エネルギー・テクノロジーなどを切り口にしながら

読み解いていくこの授業、


第二次大戦後のアメリカ覇権の「時代の転換点」であると

あらゆる人が評価しているこのタイミングで受けることができて

よかった、と思った。


(ちなみに、「大国」に日本は入っていない。

経済規模では第3位でありながらも、

外交の裏打ちとなる軍事力を持たないことの意味を

また、国連常任理事国では無いことも含めて、

「入っていない」という現実は個人的には重かった。)


***


Take away、とまでconcreteなものでは無いが、

こんな視点を得た。


1. “Battle of Ideas”


中国・ロシア・トルコなど

権威主義的(authoritarian)なリーダーの率いる国々が台頭し、

米国の内向き主義や英国のBrexitなど

民主主義やリベラルな秩序が揺れ動いている時代。


「自信を失っている」民主主義は長期的に維持されるのか?


中国からの学生やシンガポールの学生は

権威主義—特に「Socialism with Chinese Characteristics」という

中国の新しい権威の形の優位性を主張する。


この話題は学期の中で何度も何度も議論を重ねることとなったが、

クラスとしては最終的に民主主義の優位性を信じるという意見が大勢だった。


2. これから次の数十年間は米国と中国と覇権の時代。その中で日本は。


以前にも書いたが、

中国の経済力はすでに購買力平価ベースのGDPでは米国を抜いている。


軍事的には2050年には中国は最大の軍になると誓う中、

ここからの数十年は米国と中国が覇権を争う時代になる。


内向きになる米国を傍目に、

中国は明確に大国としてのビジョンと責任(環境問題、自由貿易、BRI等)を

請け負う意思を表明している。


中国が台頭する中、米国は過去数カ月で、

急速に米中関係において「competition」の色合いを強めた。

(ただし、enemyではなく、adversary。)


米国は日本・オーストラリアとの同盟関係、

インドとの関係を強固にすることで太平洋での優位性を維持する方針。


朝鮮戦争以降で、米国にとって日本の地理的な重要性が

これほど強調される局面はあっただろうか。


日本は最大の隣人であり歴史的な関係もある中国と、

同盟の基盤である米国との間で

今後バランスを取っていくこととなるだろう。


3. テクノロジー、そしてリーダーの果たす役割。


今後の米中関係を占う上で、

最も大きな要因はテクノロジーだ。


既にAI・量子演算の分野で

中国が優位性を持っている分野も出てきており、

特にAI(顔面認証等)の実装面では、

権威主義的な政治バックアップがある中国が圧倒的に進んでいる。


テクノロジーの進化は、

今までの軍事力の優位性を

(独占的で、資金が掛かって、内部的な技術に裏打ちされた「戦闘機」などの尺度)

覆してしまう可能性がある。


そして、何より、

各国をどんなリーダーが率いるかが最終的には一番大きい。


これだけのダイナミズムを中国が打ち出しているのも

習近平国家主席のリーダーシップに他ならない。


米国が覇権者・民主主義/リベラル世界の庇護者たる位置を

続けるかどうかも米国のリーダーに掛かっている。


****


彼の授業は、授業の構造というかソフト面でも面白かった。


1. 授業のやり方。


彼の授業では、1学期の間、

自分の出身国以外の大国を代表するグループに分けられる。


毎回の授業は、その国の目線で事前課題を読み、

グループメンバーで事前に調査・話し合いで準備をした上で、

その国を代表して授業で発言することで進んでゆく。


これは、自国以外の立場に立って考えることを学ばせると同時に、


議論を通じて、中国からの留学生、

シリアから難民として米国に来ているジャーナリスト、

UNのスポークスマン経験者、大手PEファンドの幹部、

シリコンバレーの起業家など、

あらゆるバックグラウンドの人が話し合うことで、

多くの視点を取り入れ議論を深めている。


私は米国グループに指定されており、


パレスチナ人の難民支援活動家、

モルドバの政治家、

インド系イギリス人の国連職員、

パキスタン人の市民活動家


の4人と1学期間一緒に学び、

仲間たちの専門性からも非常に勉強になった。


特に、モルドバの同級生からは、

(最初は恥ずかしながらモルドバってどこ・・という感じだったが・・・)

ロシアの脅威に日々接する彼ら(ロシア語も当然できる)の

国のポジショニングから、

自分になかった新しい目線を沢山教えてもらった。


2. ゲスト・スピーカー


キャロライン・ケネディ前駐日大使も

日本に派遣される前にBurnsにアドバイスを求めた、

と先日公演で言っていたが、


国務長官の候補と噂されるBurns教授はその人脈も凄い・・・


そして彼はその人脈を惜しみなく発揮して

授業に要人を連れてきてくれる。


ノーベル平和賞を受賞したコロンビアのサントス前大統領、

国連のバン・キムン前事務総長、

セネガルの現大統領、モゲリーニEU外務・安全保障上級代表、

トランプの前安全保障補佐官などなど、、、


挙げればきりが無いほどの豪華ゲストと議論する場を設けてくれた。


この点もBurnsの授業が人気な理由の一つである。


著名なリーダーからはその姿勢を、

政策補佐官などの実務家からは現状の課題や裏話など、

様々な角度で学ぶことができる。


3. Burnsの立ち振る舞い


最後に、この授業で本当に彼の姿勢から学ぶことが多かった。

トップ外交官ってこういうことか・・・と。。


どんな人の発言でも尊重し、うまく受け答えていく。


そして、国務省にいた時は、

毎朝一番に英国のカウンターパートに電話をしていたという彼は、

常に最新の情報をアップデートしながら、

必要あれば授業の内容をも臨機応変にすぐ変える。

(彼女の秘書はいつも走り回っていて大変そうだが。)


シラバスで当初予定していた北朝鮮のシミュレーションは、

北朝鮮情勢の落ち着きを見てシリア紛争に変更し、

数日前に朝ウクライナ船籍の3隻がケルチ海峡で

ロシアに拘束されたニュースが入ると、

授業の最初の数十分はその状況分析に当てた。


いつも海外を飛び回っていて、

かつ、生徒にも一人一人「what can I do for you」と

時間を割いてくれる。


彼の飽くなき向上心と紳士さとエネルギーに本当に感銘を受けた。


***


授業の最後は、

彼が大切にしているTheodore Roosevelt大統領の

1910年の言葉で締めくくった。


“Go into the “arena” so that “your place shall bever be with those cold and timid souls who know neither victory nor defeat”


どの国でも、リーダーの素質って同じなんだな・・・と思った瞬間だった。


***


ちなみに、

この授業の期末試験は、来週の口述試験。

口述って・・・ヒェーー。。


外交官らしいというか・・・。

教授と、Teaching Fellow2人の3人対して1人30分ガチンコ勝負。

頑張ります。。。


(Burns教授と。)

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