HKS女性リーダーの横顔(5):防げる失明を減らしたい。医師が政策を学ぶ理由―エジプトのDoaa。
今回は、私と同い年のエジブトの女医、Doaa Sobeih。
==HKS女性リーダーの横顔シリーズ==
(1) 家族の理解が得られなくても自分が変えるーアルジェリアのLucila
(2) 小さな島国からの発信ーバルバドスの外交官Donna。
(3) 選挙ボランティアから政権中枢へーPhillyの良心Gwen。
(4) 3人の母であり起業家。幼児教育を変えたい!男女平等の国ルワンダのLydie。
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エジプトで生まれ育ったDooaは、
両親の教育を最優先させてくれる方針のもとで、
医学部に進学、
目の不自由な方を助けたいとの思いで眼科医になった。
とりわけ彼女に大きな影響を与えたのは、
研修医の期間中に、
医療制度が行き届いていないマトルーフ県(Matrouh)の
田舎の病院での経験だったそう。
そこで彼女が見たのは、
物的資源の不足、医療アクセスのなさや眼科医の不足によって、
多くの人が、白内障などの治せる病気で失明していたこと。
また、早期発見・早期治療によって病気の進行を防ぐことも
多くの場合でなされていなかったこと。
例えば、彼女が出会ったのは、
糖尿病への知識不足とケア不足で、
30年かけて失明してしまった男性。
その地域の人々は、実際に失明してから、
もしくは、もう病状が進みすぎて失明を防げないような状態で
やっと病院に助けを求めるという状況だった。
こんな経験から、
彼女は眼科医として失明を食い止めたいと言う思いと同時に、
医師の活動だけではこの現状を変えられないのでは?
と思い始めた。
結局、多くの人が失明を引き起こしている背景にあるのは、
貧困や無知、医療教育プログラムのなさなど
複合要因によるものだと気づいたからだ。
***
彼女はこの経験をきっかけに、
医師としても働く傍ら、
所属していた病院で公衆衛生・失明抑制ユニットを立ち上げ、
医療教育や、早期発見のための検査、
地元の家庭医のトレーニングなど、
地域で失明を減らすための施策を率いてきた。
このユニット立ち上げに当たって、
彼女は資金手当など数多くの困難に直面。
省庁からお金を出してもらえないのなら、と、
寄付を募ったり、製薬会社にスポンサーを求めたり、
ボランティアを雇ったりして、
試行錯誤しながら運営を進めた。
その後、彼女はより高い医療知識を得るために渡米し、
ハーバードのメディカルスクールの研究フェローとして、
専門性を磨いてきが、
やはりそれだけでは根本的な問題は解決しないと
ケネディ・スクールで学ぶことを決心した。
ケネディ・スクールでは、
経済、社会、政治など幅広い観点から政策を学んでおり、
今後、「失明を減らす」という目標に
より大きなインパクトを出せることが目標だ。
「何かを達成するのに、完璧なタイミングを待っててはダメね。
完璧なタイミングなんて来ないかもしれないし。」
できる時にできることをやるしかない。
目的のためにリスクをとって挑戦するしかない。
彼女はそう言う。
2012年に渡米するにあたっては、
家族から離れ、違う言葉と文化の中でやっていけるのか?
不安に苛まれたと言う。
「でも、そこで止まっていたら今の自分はなかったし、
渡米したことが振り返れば最高の判断だったと思う」
***
日本では、医学部不正入試問題などで
女性の医師を減らすインセンティブが働いていたことに
個人的にはかなりの残念に思ったが、
そんな日本の状況から差をつけるように、
彼女は女性の専門医を増やす積極的に活動も行なっている。
自身の専門分野での女性のリーダーシップとプレゼンス向上を目的として、
女性が高度な手術トレーニングと経験を得るために障害になっていることは何か?
女性医師たちはどんなキャリア目標を持っているか?などをリサーチし、
そのサーベイをベースにした論文
「エジプトの女性眼科医:白内障手術のトレーニングと臨床専門分野の選択」
を発表。
Doaaはこのような活動を通じて、
技術レベルを上げ、手術に従事できる女性眼科医を増やして、
今足りていない失明問題に取り組める医療プロフェッショナルの供給を
増やすことを目指している。
そんな彼女を突き動かすものは何か。
「患者さんに、
もう愛する人を見ることができない
失明のことを告げるのが、
私の人生で一番辛いこと。
これを少しでも防げるのなら、
と言うのが私を動かす原動力。」
「エジプトには百万人の盲目の人と、
3百万人の目が不自由な人がいる。
私が学ぶ全てのことが、
この人たちを助けるピースの一つになっている、
そう思っているよ。」
***
ケネディ・スクールに限らないが、
アメリカにいると、Dual Degreeと言って二つの学位を同時に取得したり、
一つの専門分野を持って、さらに政策やビジネスを学ぶケースは、
非常に多い。
法律(弁護士・裁判官)と政策、ビジネスと政策、、、など。
そして、臨床経験を積む中で、
医療行為だけでは解決できない課題に直面し、
医師でありながら政策を学んでいる人も一定数いて、
同級生にはDoaaの他に、アメリカ人の小児科医の女性もいる。
同い年で、これだけ問題意識を持って
専門性もありながら自分の医者という目の前の仕事だけではく、
広い問題意識を解決するために活動していると言うのは、
私にとってはすごく刺激になった。
Doaaのこれからの戦いを応援したい。
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※今回は、直接のインタビューに加えて、本人の了承を得てミレニアルアイでのインタビュー記事からも参考・一部引用させていただきました。
〆
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