国家は破綻する?カルメン・ラインハート教授と日本財政を考える。
授業が終わったら、あれやって、これやって・・・
毎日ブログも更新しよう、ぐらいに思っていたのに、
娘さんが肺感染により保育園休みが一週間続いており、
何にもできない日々が続いてしまった。。。
保育園に行けなくても、授業欠席リスク等で焦らなくても良いのが有難いが。。
回復の兆しが見えてきたので、やっとパソコンの前に戻る。
・・・とそんなこんなしているうちに、ボストンはすっかり卒業式シーズンに。
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今期とった授業の一つに、
金融危機の専門家であるCarmen Reinhart教授の「Financial Crises」がある。
日本でも「国家は破綻する」として訳されている
This Time Is Differentをロゴフ教授との共著している先生。
歴史を紐解くと、毎回毎回人間は
「今回は違う」
と言って色々理由をつけて解釈するけれど、
(・・・産業構造がシフトしたからだ、金融イノベーションがあるからだ・・・などなど)
結局いつもバブルは弾けて危機に瀕する。
そんな800年の過去の金融危機を分析したこの本は、
「国家は破綻する」と言う日本語のタイトルより、
”This Time is Different“と言う皮肉を込めたタイトルの方がしっくりくる。
投資銀行でキャリアをスタートし、
アカデミアとIMFでの実務両方の経験があるラインハート教授。
過去には負債と成長の関係(負債がGDPの90%を超えると成長鈍化が見られる)についての研究結果に、エクセル計算間違いなどが発覚してスキャンダルになったこともあるが、
キューバ生まれのラテンなノリ(授業がシラバス通りに進まないこと半端ない)と、
データに対するマニアぶりの共存しており、
また、旦那さんもFedに勤めた著名エコノミスト(Vincent Reinhart)で、
ゲスト講義で授業に来てくれ、
とにかく、ファッションセンスとユーモアセンスのある、面白い先生である。
(先生の授業風景。いつも笑いが絶えない。)
元々南米の固定相場を起因とするような金融危機が専門だったと思われるが、
アジア通貨危機以来、アジアも研究されており、
基本的には財政再建派・・・というか緊縮財政派という側面はあるが、
金融危機の定義やロジックなど授業はとても勉強になった。
本授業では、Early Warningと呼ばれる危機のサインを分析したレポート含め、
選択した国のデータを調査し、学期中に3本レポートを書く。
(最後の授業でライハート教授と。)
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いつもながら私は日本の負債問題について書いたわけだが。。
改めて整理したのは以下のようなことだろうか。
• 日本の負債はGDP240%まで積み上がり続けて先進国最悪の異常な状態であるが、黒田総裁以降のQQEで国債の40%程度が日銀保有になっており、実質政府にリファイナンスされた格好。短期的に負債危機リスクは以前より下がっている。
• 経済成長率が低空飛行しか期待できない中での赤字予算・負債の積み上がりは、デフォルト懸念もさることながら、予算自由度や次の低金利下の危機/景気後退局面での財政出動が難しくなると言う課題がある。
• アベノミクス以降、失業率の低さやデフレ脱却(但し目標インフレ2%には程遠い)には一定の効果を発揮したものの、QQEの副作用、特に超低金利環境下における(1)資産への資金流入によるバブル(2)金融機関の利ざやの圧迫―特に地銀のリスクテイク、が次の危機(特に銀行危機)の火種を作っている。
• 日本国債の安定の前提である国内預金者による保有については、外国人保有比率が現在12%とジリジリ上がってきている。(とはいえ、1点目の通り預金者保有部分は日銀保有にリファイナンスされているので現時点での影響は少ないと思われるが。)
• 長期的に財政規律を維持する(もしくは維持する意志を見せて市場からの信用を維持する)ために、増税を含めてプライマリーバランスを改善する策は中期的に絶対必要ではあるものの、緩和を続ける中で消費増税して景気後退させるのは本末転倒の部分もあり、手法・タイミングは注意が必要。完全雇用を実現してアベノミクスで安定している間にCounter Cyclicalに増税できれば良かったが、世界経済減速でやや不安要素あり。
ちなみに、最近サマーズとファーマン教授は米国の負債が積み上がっている状況について、負債自体が悪いことではないと言う論陣を張っているが、それはその通りだと思う。
企業が成長するにも個人が家を買うにも借入の活用は不可欠だ。
一方で、日本の場合の問題は、借金が良いかどうかと言う問題ではなくて、人口減少の中で返済能力が下がり、しかも借金が増えているのが主に社会保障の積み上がりによるもの・・・すなわち長期的に持続可能な負債ではない(財政ファイナンスが許されないとするならば)と言う点である。
日本の予算の1/3は元利払い、1/3は社会保障費である。
皆医療保険などは世界に誇る制度だと思う一方で、教育や子育てなどに、OECD比較でも低い割合しか政策資金を割けないと言うのは非常に残念な状態である。
したがって、社会保障部分の見直し(特に医療介護費)は喫緊の課題だ。
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この先、財政再建にあたっては、どんな手立てが有効なのだろうか。
ケネディ・スクールのFrankel教授(私のアカデミック・アドバイザーでもある)や、アベノミクスの立役者でもあるイェールの浜田教授も以前触れていたことがあり、また、ファーマン教授のオフィス・アワーで話を伺った時にも提案が出たのは、
「段階的消費税引き上げ」だ。
今のように、ハイ、3%・・・
と政治に左右されながら場当たり的に上げるのではなく、
ある程度例えば、欧米と同等レベルの「15%まで」などと決めて、
毎年1%づつ段階的に上げていくものだ。
そうすれば、将来の増税を見越して現行の消費も喚起され、
段階的引き上げがある種擬似インフレ的な感覚を呼び起こす可能性がある。
産業界、特に中小企業や小売から「事務手間が!!!」と
言うのが聞こえてきそうだが、
いつどこで3%上がるかわからなくて急に対応を求められるより、
「毎年1%上がる」と確実に分かっていた方が対応し易いのではないだろうか。
諸々検証が必要ではあるが面白いと思う。
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日本の経済は需要不足でお金を擦って需要喚起するステージから、
人口減による供給不足ステージに入ってくる。
個人的には、潜在成長率の引き上げに資するような政策にリソース投入できるように、
財政の不安要素を安定させたいものだ、と思う。
〆
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