成長の停滞と格差の拡大を考える(1):トランプのアメリカから。

日本の成長は、先進国の成長は、なぜ停滞してしまっているのか?


そんなテーマにダイレクトにヒントをくれるのが、

「Growth, Inequality, Income of Household」という

Jason Furman教授の授業だ。

毎回毎回、一番唸る。

(日本は春が近いようだが、こちらはまだマイナス圏。。)


Jason Furman教授は、

Obama政権の大統領経済諮問委員会(CEA)の

委員長(Chair)だったエコノミスト。


この授業は、経済系の授業には珍しく、

理論や数式などを教えること(説明の補足として登場する程度)は

ほぼ皆無で、


ひたすら、データをベースにした論文や論評を読みながら

現象について考えて、議論しながら政策に繋げていくという授業。


最前線エコノミストという教授のバックグラウンドから

私が勝手に想像していたのと違い、


「経済学っぽくない」授業スタイルに、

最初はもしかして物足りないかな?とも思ったものの、


なぜほとんどの先進国の成長は鈍化したのか?

格差是正と成長は両立し得るのか?

中流家庭の所得を上げるには?

など、


実務家として、そして恐らく今も悩んでいるだろう、

先生の繰り出す「問い」と

データの示す「現状」が深すぎて、


毎回事前課題を読みながら、

教授の講義を聴きながら、

唸ってしまい、


今では最も毎回楽しみな授業の一つだ。


また、この授業は、起きている現象について、

あらゆる仮説を検証しながら

真実を探すことにも注力している。


例えば、


・ 成長の鈍化は生産性の低下なのか?過去数十年の成長が異常だっただけなのか?

・ 生産性の低下はイノベーションが起きていないからなのか?計測の問題か?

・ 米会社のCEOの給料が高いのは市場原理が働いているからか?壊れているからか?

など。


時系列・国別比較・回帰分析による相関関係・ランダム化試験による因果関係など

様々な切り口の論文やデータで丁寧に検証していくので、


ある経済事象について

症状と処方箋を解析するというトレーニングとしても

学ぶことは非常に多い。


***


また今後も面白いと思ったものを幾つか紹介したいと思うが、

数日前のアメリカの労働市場についての議論が


「トランプのアメリカ」を示す上で

非常に示唆に富んでいたので、紹介したい。


リーマンショックの落ち込みから

順調に回復してきた失業率の影で、


アメリカの、男性の働き盛り(=Prime Age, 25-54歳)の

労働参加率が減少している。


1950年代の98%から現在は88%程度。


失業率は、簡単に言えば「職を探している人の中で、職がない人」

を測る指標なので、「そもそも職も探してない人」は反映されていない。


その「そもそも職も探していない人」が増えているのだ。

(図はVOX CEPR Portalの先生の記事より)


アメリカの働き盛りの男性の労働参加率はOECDの国の中でもかなり低い。


例えば、日本は95%近い。(出典同上、OECD調べ。)


さらに、この低下傾向は学歴が高卒以下だとさらに低い傾向になる。


これを見ると、

1. 女性の社会進出が進んだので配偶者の収入で生きている人が多い?

2. 生活保護などの政府支援の充実で働かない人が増えた?

3. グローバル化やテクノロジーの変化でスキルの低い労働者に提供される仕事が減った?

5. 労働規制などの規制や制度的な要因により仕事をしない人が増えた?

など、需要側、供給側、構造問題など様々な要因が考え付く。


日本はじめ色々なメディアや安易な評論家は

この推測・仮説段階で


「だから〇〇ダメだー!」と


なってしまいがちだが、


ここからが検証ステージ。


周辺を検証してみると:

・ 配偶者がいない人の参加率が落ちているので、1は無さそう。

・ 過去より生活保護規制は厳しく、受給者は増えていないので2は無さそう。

・ グローバル化やテクノロジーは他先進国でも同じなので、他先進国に比べてアメリカが高い理由にはならない。

・ ただし、教育水準が低い人の賃金が下がっているので、需要が減っているという点は影響としてありうる。

・ 米国は他先進国と比べて労働規制が少なく、自由な市場。一方で、労働市場政策に関連する支出、失業給付の期間、育休、子育て支援、支援策は非常に少ない。

・ 米国は逮捕者(投獄中の人)が他先進国と比べて異常に多い。また、出獄後の職探しが難しい。

(出典同上)


などの点が浮かび上がってくる。


そこから見えてくるのは、

「自由なアメリカ」の影で、

こぼれ落ちてしまった人々の姿だ。


拡大している格差でこういった層の不満から

トランプ政権が誕生している。


また、ここから、

失業給付などの安全弁の整備、

貧困層が大学に行ける支援、

労働者のスキルを上げる教育改革、

消滅気味の組合や最低賃金など労働者を守る仕組み、

刑事司法のあり方、、などの政策が見えてくる。


これらの政策だけ列挙すると

すごく左派的に見えるかもしれないが、

(しかもFurman教授も民主党系なので

バイアスがあると思われるかもしれないが)


自由な裏でアメリカのセーフティネットの無さは、

日本と比べ物にならないくらい厳しくもあり、


(例えば、女子的には産休・育休制度の保証されていないので

職が無くならないように焦って数ヶ月で復帰する人も多いし、

認可落ちたー、どころか

認可なんてなく月30万払わないと保育園にも入れられない。

そもそも保険がなくて、病気になっても病院に行けない人も多い。)


「アメリカン・ドリーム」を達成する=親より稼げる機会は、

着実に減ってしまっている状況だ。


しかし、「自由」「小さな政府」が強調されるゆえに、

上記のようなセーフティネットの政策が、

イデオロギー的に通ることが困難な場合も多い。


これがサンダースのような、ある種、社会主義者的な思考の人と、

トランプのように「君達が主役だ」といってくれる

今までと違う人(実際の政策は別として)

に人気が集まる温床となる。


***


と、こんなことを学びながら、


この授業では、提出課題で自分で国を選んで研究できるので、

私は言わずもがな「日本」を選んでデータ検証中。


日本人的には大注目の「生産性」などに関する議論も

本当に面白いので、

また紹介したい。


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