私が男性の育休を義務化すべきだと思う理由。

今日出席したジェンダーに関するセミナーには、

6ヶ月の男の子を抱っこ紐で抱えた同級生の男性(軍人)が参加していた。

ケネディ・スクールでもジェンダー系の授業やセミナーに来るのは女性が大半だが、

少数派の男性達を見渡すと、結構軍人が多い。


軍における女性の扱いについて悩む将来のリーダー達なのだろう。


そのほかも参加している人面々を見ると面白い。

テクノロジー界の女性を増やしたいシリコンバレーの同級生、

セクハラが専門という中国人の研究者、、、


「喫緊の課題だ」と思っている人たちが糸口を探しに来ている感じが見て取れる。


***


さて、タイトルの件。


賛否両論あることは重々承知した上で、

ここはあえて駒崎さん風(笑)の断言で「義務化」「すべき」と書いてみる。


以前女性の社会進出に関する記事を書いたが、

改めて思うのは

働く女性の「子育て」「家事」に関する偏った負担を是正しない限り

真の意味での、働きたい女性の社会進出は実現しない、ということ。


昨今のNew York Timesの記事(日本語版こちら)は、

決して大袈裟ではなく

働く母親ならばどこかの部分は共感するのでは無いだろうか。


そりゃあ、この状況だと、働かなくても家計に余裕があるならば、

「そんな苦しい思いまでして、可愛い我が子と離れてまで働きたくないよね・・・」

と思う人も沢山いるだろう。


正規・非正規における同一労働同一賃金の原則や

(というか、そもそも、その二つのカテゴリは要らないと思う)

保育園の整備などのインフラ整備は大・大・大前提として、


より女性が働きやすい環境、

そして更には男性・女性関わらず全ての人が育てやすい社会を作る上で、

あえてこの2点を提案したい。


1.  配偶者の産後2週間は男性も休暇取得をデフォルト化。

2.  育児休職の満2歳までの取得は、男女で半々を義務にする。 

  (上限より短く取得する場合も、期間に応じて半々。)


(*尚、義務と言っても、例えば100人以上の企業に制度化を義務とするのか、フランスのように申請を拒否できないという形にするのか、個人に対して「取れ」という義務を課すのは難しい部分もあるかもしれないが、ここはあえて個人側が申請する上で「男女半々」の部分を義務とする主旨。)


今は男性取得率3%の育休、政府がいくら「推進してます!」と言っても

今の「常態」からインパクトのある施策がないとブレークスルーは無い。


生まれた直後の一番不安で試行錯誤な時を、たった数週間でも夫婦で一緒に過ごす、

また、今では自動的に女性がとっている数ヶ月から2年の育休を男性と半分にする。


そこに意義があると思うのは、こんな観点からだ。


1. 「男女格差ならぬ、「カップル内格差の前提を打破できるかもしれない。


男女の賃金差分野の研究で著名なハーバード大

Claudia Goldin経済学教授によれば、


「時間の柔軟性のコストの高さ」が、

男女の賃金の大部分の格差を生み出してる、という。


どういうことか?


子供のいない男女の賃金はあまり変わらない。

(そりゃ、同じ職種だったら入社時に「女子の給料はコレ、男子はコレ」

なんて言われることは今の時代無い。)


しかし、カップルに子供ができた後は、子育てと家事を主で担う女性は、

辞めるか給与が相対的に安い職種に転じる。


一方で、男性が今までの仕事を続けることで、

それまで同等だったとしても、

出産を機にカップル内での格差を生み出している、ということだ。


時間の柔軟性のコストとは、

子供のために時間を作れるような働き方をすることが、

今の社会では経済的コストが高いことを意味する。


長時間労働や、時間の目処が立たない「呼び出し待機”on-call”」型の仕事

・・・例えば、最も極端な例で言えば、

医者が夜中に手術のために呼び出されたり、

投資銀行・弁護士・営業マン等が急遽クライアントの要望に応えたり、

官僚が国会前に徹夜したりする・・・

そういった仕事に家事・育児を主で担う女性はつきにくい。


そして往々にして、そういったオン・コール型の仕事の給与は高い。


そこまで極端な仕事でなくても、

日本では、女性は出産をきっかけに約半分が退職する。


日本においては長時間労働がデフォルトになっているので、

オン・コール型の仕事でなくとも、夫が長時間労働していたら、

保育園のお迎えのために、

子供のご飯のために、

宿題のために・・・

奥さんが柔軟な時間を作るしかない。

(写真はGoldin教授の説明。アメリカにおけるMBAを取った女性(オレンジ=子供のいない女性、紫=子供のいる女性)とMBAを取った男性との給与比較。子供がいると差がどんどん開く、という事実。)


そして、今の日本のシステムでは

一度終身雇用のシステムから出てしまうと、

復帰するときは非正規となる確率が高くなる。


ここで問題なのは、

「どちらが柔軟な時間を確保するのか?」という選択が、

そんな話し合いをするまでも無く、


一度「育休」で長期の休みを取っている

女性が「その流れで」担うということになることが多いだろうことだ。

私のケースは・・)


100-0では無くて、様々な形があり得るのだということを、

そもそもそんなことを考える間もない日々に忙殺されて思考停止して、

デフォルトになりつつあるスターティング・ポイントを

男性の育休を通じて少しフラットに考える機会をくれるのでは無いだろうか。


2. 世界最低レベルの男性の家事参加時間の向上――「主体的に」家事・育児する経験を。


日本の男性の家事参加時間は、幾つかのデータを見ても

概ね女性の6-7分の1程度で、先進国最低レベルだ。


そして個人的にはよく目にする

「イクメン」が「手伝ってくれる」というスタンスには

強烈な違和感を覚える。


(ちなみに家事時間をチェックするために見た

内閣府のデータのタイトルが「夫の協力」であったことにも違和感を覚えた。。。)


その時点で家事・育児において「主」は奥さんで

旦那さんは「サブ」であることが社会的に前提になっているからだ。


だから、育休を通じて男性が家事参加する上で

主体的な責任を担う期間を作ってほしい。


旦那が自分で主体的にやってこそ、

「名もなき家事」の存在も自分で認識できるし、「指示待ち夫」にもならない。


何なら奥さんがやるよりも更に効率的な方法を編み出すかもしれない。


旦那側からしても、文句を言われながら指示通りにこなすより、

自分なりの子育てや家事をする中で新たな発見をして成長した方が、

幸せ度が高いし、仕事にも活かせる学びがあるはずだ。


奥さんが働いて夫が家にいることになったら、

奥さんは今までのやり方で口を出す時間もなくなり、

夫が「自分主体」で育児をする時間を作ることができる。


その後の「2人での子育て」の土台を作ることができるのではないか。


3. 働き方改革への好循環ができるかもしれない。


もし、育休のために引き継ぎをしたり、

時短をしたり、「子供が熱で・・・」と休んだり、

「夜の会食はちょっと・・・」と職場でいうのが、


今のように女性ではなくて男性だったとしたら・・・?


今まで専業主婦の奥様に支えられていて、

家事や子育てのある環境について

1ミリも想像力が働かないオジサマ上司の見方も変わるかもしれない。


「女性は”色々あるし”仕方ないよね」ではなくて、

「男女関係なく、全員が働きやすい効率的な職場を目指そう」

と思って欲しいのだ。


長時間労働も、子供有り世帯では、

どちらかが負担を負うことでのみ成立するものだ。


会社のイベントも土日のゴルフコンペではなくて、

家族ウェルカムイベントが増えるかもしれない。


また、子供による時間の制約があると

「心から」効率化を追求するようになるので、

無駄な会議をやめIT化するなどの業務効率化も期待できるかもしれない。


4. 男性視点も入れた「子育て」改革に繋がるかもしれない。


アカチャンホンポのおしりふきの表示が

「”お母さん”を応援」となっていたことについて変更を求める声で

「”子育てをする全ての人”を応援」に書き換えられたそうだが(素晴らしい!)、

こういう無意識のバイアスはいたるところにある。


例えば、会社の子育てハンドブックは「お母さんの」制度として書かれていて、

父親に関する記載は最後に申し訳程度だったりする。


保育士さんは不足しているのに、男性の保育士さんは殆どいないし、

男性が育児行事に参加しただけで肩身が狭いなんてこともある。


男性がメインで子育てをしたり、家事をしたりする機会を増やすことで、

世間の目に触れる男性の種類も広がって、

こう言った無意識なバイアスが明らかになったり、

改善されたり、効率化されたりするかもしれない。


***


想定されるご批判に反論するとすれば・・・


1. 子育てはやっぱり母親がすべきものでは。なんだかんだ赤ちゃんには「ママ」が必要。


0-3歳がその後の人生にとって極めて重要な時期だということは

立証されているわけだが、

その大事な時期を育てるのが「ママ」である必然性は無い。

所謂3歳児神話の「母親が」という部分については

合理的な根拠が無い旨は厚生労働省も20年前に言っている。


「パパ」でも、他の家族やケアギバーでも

愛情を注いで育てるという意味では変わらない。


正直、産んだ後は

母乳以外で「母親で無ければ出来ない」ことは無いと思う。

母乳も保存したりすることは可能だ。


世界各地で男性がメインで子育てしている家庭は沢山ある。

男性より女性が子育てをすべきというのは幻想だ。


2. 奥さんが専業主婦だから必要ない。


奥さんが専業主婦なので旦那さんが休みを取る必要は無い

・・・そうだろうか?


奥さんが仕事をしなくても十分な収入があったり、

奥さんが子育てという大切な仕事を集中して専任で取り組むのは

とても素晴らしいことだ。


一方で、出産という命がけの行為・産後の大変な期間について、

夫が手伝う必要がないということは無いし、

多くの同僚や部下などが経験する環境について

無知でいて良いということでも無い。


旦那さんが協力的だったら、

専業主婦の奥さんも一人でなくて、二人子供が欲しいと思うかもしれない。


奥さんが専業主婦だったとしても、

社会全体で子育てをしていく文化を醸成するために、

男性が育休を取ることには大きな意義がある。


3. 産後2週間休んでもマスオさん状態になるだけだ。


出産前後でよく女性は里帰りして、実家のサポートを受ける。

その場合男性が休みを取っても・・・ということも想定されるかもしれない。


が、私達世代が実家のサポートを受けられたとしても、

女性の労働参加率が70%近い今、

今後は「実家の母」も働いている可能性があって

早々簡単に長期の休みが取れないかもしれないし、

晩婚化が進んで実家の母も歳をとっていて頼れないというケースが増えるかもしれない。


更に言えば、実家のサポートがあったとしても、

二人以上の子供がいれば、

上の子の面倒を観てくれる人がいるかどうかはかなり大きい。


これからはマスオさんになれることさえも

一部の恵まれた人が享受できる贅沢と認識される

世の中になるのでは無いだろうか。


4. 男性の方が仕事を休みにくい。


本来、同じ役職にある男女で仕事の役割や責任に違いは無いはずである。


だから女性は取れて男性が取れないという合理的な根拠は無い。


義務化すれば、

「取ったら出世が・・」「空気が読めていないという目で見られる」という、

制度を使っただけでみられる不合理な無形プレッシャーに悩まなくても良い。

(実際、これを理由に取得できない男性は多い)


半年以上前からわかっているわけだから、

調整すれば女性が休めて男性が休めないことは無いはずだ。


5. 企業の負担が重い。


現在女性が2歳まで取得できる制度の半分の期間を

男性に割り当てるだけなので、

本来的には企業の負担は変わらないはずだ。


育休中の給付の原資は今まで同様雇用保険を想定しているので、

会社は福利厚生として給付のトップアップをしない限りは、

取得する人の金銭というより

「人が休むことによる業務負担」に関する追加負担が主である。


現在のように男性中心の企業だと、

そもそも男性の絶対数の方が多いし、主要ポジションにいる男性が多い。


でも、それらの男性が取得することが企業負担だ・・と言う事は、

現行制度下では育休を取ることが前提となっている女性について、

今後その数を増やすことや、主要ポジションに置くことそのものを

否定しているようなものだ。


「女性役員を増やしたい、女性の活躍を推進したい」

という主張は口だけです、と言っているのと等しい。


それこそが医大の入試差別が起きる考え方だろう。


男女関わらず誰しもが休む可能性がある、と言うことを前提にして

適正人数や業務を考えて、違う部分を効率化・改革するべきなので無いだろうか。


ここ数年、シリコン・バレーでは男性の育休を導入している企業が増えたようだが、

女性の育休でさえ義務化されていないアメリカで、

Facebook、Netflixやamazonなど先端企業がこぞって父親の育休を制度化するのは、

そういった魅力的な環境でないと優秀な人が集まらないからだ。


日本でもむしろ、人不足になる中で、優秀な人を惹きつけるために

企業がこぞって導入するぐらいの方向になってほしい。


6. 世の中には男性が働くのを支援したい女性もいる。自分は子育てに専念したい。


専業主婦では無いけれど、

子供が小さいうちは少し仕事の量を減らして働いて、

子育てに集中したいし、

旦那さんが一所懸命働く環境をサポートしたい。


そういうお母さんも沢山いるかもしれない。


たとえそういう考えだったとしても、

「だから私が育休が半分になって旦那さんが休みを取るのは反対!」

となるのは少し待ってほしい。


そこから少なくとも20年くらいは自分が主体的に育児する中で、

一生に一度、数ヶ月でも旦那さんが育児に主体的に参加できる機会を作ることを

否定する必要はあるだろうか?


一方で、女性が子育てに集中したい、と思うのと同じくらい、

奥さんバリバリ働いているし、

自分も子育てに参加したいと思っているけれど、

社会的に育休を活用できる風土になくてできない・・・

というお父さんもいるかもしれない。

アンケートでは育休を取りたかった男性は3割)


家庭内の事情によって、

場合によっては一定期間分について

相手のパートナーに譲渡できる制度はあっても良いかもしれないが、


この場合でも、スェーデンのように一定期間は譲渡できないという制約を作る方が、

社会全体としては男性の育児参加について

「機会と、周囲の理解も含めた環境」を作って

参加率を上げる意義があるのでは無いだろうか。


以上、

制度はあっても「風土」で使われていない男性の育休、

いっそのこと義務にしたら少し社会が変わるのでは?

という意見でした。


***


個人的には、週休二日を導入した時と同様、


まずは朝まで働いている霞が関の国家公務員の皆さんから導入してもらったらいいと思う。


あ、ちなみに現行制度でも男性と半々でとった方が、金銭的にはお得です!


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